静脈瘤と血行動態の関係

 

 肝硬変において食道静脈瘤を有する例では門脈圧(門脈と下大静脈の圧較差または閉塞肝静脈圧と静脈圧の較差は10 mmHg 以上である.門脈圧あるいは静脈瘤圧以外の血行動態と静脈瘤との関係については従来あまり検討がなされてなかったが,われわれの検討では静脈瘤のサイズなどに対しより強く関与している因子は循環血漿量であった.この点でもスビロノラクトンは門亢症に対する薬物療法の一つとして意義があるとみなしている。

 

 静脈瘤出血の予測因子となるのは,内視鏡所見では静脈瘤の形態, R-C signなどであるが,門脈圧については12 mmHg 以上が条件とされる.実際,プロプラノロールの長期投与により門脈圧が12 mmHg 以下に下降した例では出血例がなかったと報告されている.したがって,静脈瘤に対する薬物療法の目標の一つは門脈圧を12 mgHg以下に低下させることである.静脈瘤出血に関与する他の因子として静脈瘤圧がある。門脈血と静脈瘤圧は必ずしも相関関係にない.静脈瘤圧も血管抵抗と血流量によって規制されていると思われる.したがって,そのいずれかを低下させることができれば出血のリスクを減ずることとなる.すなわち,プロプラノロールにより門脈圧が12 mmHg 以下に低下せずとも,その収縮作用により静脈瘤血流量が低下すれば,出血が予防できると考えられる.食道静脈瘤血流量は奇静脈血流量を測定することにより知ることができる.

 

 

プロプラノロールの血行動態に対する作用

 

 肝硬変においてプロプラノロペルを0.5 mg/分,10分間静注すると,30分後に門脈圧(肝静脈圧較差)が26%低下する.これはバゾプレッシンを0.2単位/分で静注した場合の效果に匹敵する。 また,経口的に30 mg/日,4週投与すると平均24%低下する用.この効果はアルコール,ウイルスなど肝硬変の成因には関係がない。 ドップラーエコ一法で門脈血流量を測定するとプロプラノロールがその血流量を減少させているのが分かる.この際,門脈径には変化がない.さらに,左1肖静脈や奇静脈血流量も低下させる.この点からも静脈瘤に対する効果が予測される.非選択性β遮断薬の肝血流量への影響については成績がcontroversialである.肝血流量が低下しない理由として肝動脈血流量の反射性増加が考えられる。 しかし,門脈血流の低下が肝動脈血流量の増加によって完全に代償されることはないともいわれる.

 

Non responderについて

 

 プロプラノロールの門脈圧降圧作用は明らかであるが,なかには門脈圧の低下率が10%以下のnon-responderが存在する.筆者らの長期投与例においても18%の頻度で存在したm.他の報告でも30~40%である.無あるいは低反応の理由として,β受容体のdown-regulation、肝内あるいは側副血行路の血管抵抗上昇,門脈血流量減少に伴う肝動脈血流量の増加による閉塞肝静脈圧の上昇などが想定されるが,いまだに不明である。患者の背景,肝硬変の成因,肝疾患の重症度,プロプラノロールの血中濃度などとは関係がない . Non-responderの存在は他の薬剤でも同様で,スピロノラクトンにおける検討でも約30%に存在した。プロプラノロール,ニプラジロール,カルベジロール,スピロノラクドンの4剤に対するresponderとnon-responderについて投与前の血行動態を比較した結果,前者において肝静脈圧較差,平均動脈圧が有意に高く,総末梢血管抵抗が高値の傾向を示した。すなわち, hyperdynamic stateの面からはより早期の例にresponderが多いことになる.現在のところ,個々の例で本剤の反応を予測する簡便な方法はない.プロプラノロールについては投与による門脈圧測定が唯一の方法である.

 

 

薬物併用療法

 

 門脈降圧作用の増強, non-responderに対する対応を目的とした門脈降圧薬の併用療法が検討されている。プロプラノロールとNTGあるいはisosorbide 5-mononitratcを併用すると,門脈圧低下作用の増強あるいはnon-respon-derの頻度の減少が認められる.実際,プロプラノロール単独に比し2倍の門脈圧降圧作用があったと報告されている117=.この際,プロプラノロールによる静脈血流量低下作用は抑制されない.その他,プロプラノロールとスピロノラクトンの併用なども検討されている.しかし,その効果はまだ十分とはいえず,今後の検討課題である.われわれは,併用療法の一種として,二ト口基を有するβ遮断薬のニプラジロールへ α,β遮断薬のカルベジロールの門脈圧に対する効果を検討したが,いずれもプロプラノロールを凌駕する結果は得られなかった.

静脈瘤治療による門脈血行動態の変化

 

 食道,胃静脈瘤は門脈圧亢進により発生,発達した大循環への副行路(シャント)であるから,この副行路が内視鏡的硬化療法(EIS),内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)やバルーン下逆行性頚静脈的塞栓術(Balloon-occluded Retrograde Transvenous Obliteration,以下B-RTO)で消滅されると門脈血行動態に変化が生じることは想像に難くない.特に副行路のdirectional flow pattern の変化が惹起されEISの効果や再発が影響されることは重要で

ある.また短期間の観察では副行路の改変次第で門脈圧が変化する例もみられる.

 

 われわれは, high-riskな食道静脈瘤を有する16名の肝硬変患者にfree hand法によるEISを行い,その前後の門脈血行動態を経皮経肛門脈造影を行い検討した。 門脈圧が上昇したもの8例,低下したもの8例と同数で,上昇群では食道静脈瘤以外の門脈一大循環シャントを有するものは25%と低率であったが,低下群では88%と有為に高率であった.またEIS後にそれらのシャット加増大したものは上昇群では皆無であったのに対し,低下群では88%と有為に高率であった.したがって静脈瘤以外の門脈一大循環シャントは静脈瘤の治療後の門脈圧上昇に抑制的に働くが,それが腎シャントなどのように静脈瘤を形成するものであれば,静脈瘤は増大することになる.

 

 一方,胃穹窿部静脈瘤の新しい治療法であるB一RTOでは,巨大な胃腎シャットがほとんどの症例で血栓化するため,血行改変はより著しい.B-RTO直後の門脈圧は約20%上昇し,食道静脈瘤の増悪は約1/4の症例に認められた.

 

 食道,胃静脈瘤の発生には門脈高圧状態の持続,内臓あるいは全身の血管拡張,そして食道胃領域の特異的な解剖などが複雑に関与している.その治療にあたっては,局所の循環動態だけでなく門脈系,ひいては全身の循環動態の理解が重要である.

 

文  献

 1) Orrego H, Blendis LM, Crossley IR et al : Correlation of intrahepatic

  pressure with coHaμ

 

食道,胃静脈瘤の血行動態

 

 1.食道,胃静脈瘤の発生

 

 門脈圧がある閾値を超えると,食道静脈瘤が発生する. Garcia-Tsaoら6〕は93例のアルコール|埀肝硬変症に対して門脈圧を肝静脈カテーテル法を用いてHVPG(肝静脈圧勾配)を測定七,その値は12 mmllg であることを見いだした.われわれ7)も,肝硬変患者において食道静脈瘤は,肝静脈圧較差11mmHg以上で発生することを確認した.しかし静脈瘤の大きさと門脈圧との間に相関は認められなかった. Calesら8〕は,食道静脈瘤の大きさとPugh-Child's score との間に密接な関係を認めているが,胃穹窿部静脈瘤との間には相関を認めていない.したがって高度の静脈瘤は,より進展した肝硬変症に付随してくるものと考えられる.一方,胃穹窿部静脈瘤は脳症を合併しやすく,この機序として,肝機能不全よりむしろ巨大な門脈大循環シャント(脾肖腎シャント)の介在が主因であることが明らかにされている.しかも高度の短絡率を有しているため食道静脈瘤は発生しないか,軽度の症例が多い.

 

 2.胃上部局所におけるHyperdynamic state

 

 肝内血管抵抗の上昇と門脈血流入量増大により門脈圧が上昇し,左胄静脈および短胃静脈あるいは後胃静脈血の逆流現象が起きるかに静脈瘤の発生と進艇には,さらに井口ら9)が提唱した上部局所のhyperdynamic state左胃動脈血の流入が関与している.この血が食道,胃移行部を経て食道の粘膜下静脈,粘膜固有層静脈へ流入し,静脈瘤が形成されるというものである.左胃静脈の血流方向は遠肝性血流のみならず, to and fro性や求肝性血流も認められ,門脈血の逆流のみならずhyperdynanlic stateによる左胃動脈血の流入が示唆されている.

 

 また,食道,胃粘膜接合部から2~4cm口側の下部食道(ほぼ腹部食道に相当する部)は門脈系と大循環系の接点にあたり,特殊な血管構築がみられる.亢進を伴わない場合bidirectional venous flow を呈しており,呼吸などにより胸腔側と腹腔側の両方に流れているが,門脈圧亢進とともに,遠肝性血流となり静脈瘤を形成してゆく.

 

 3.食道,胃静脈瘤の供血路

 

 食道静脈瘤の形成に関与する主な側副血行路は左冐静脈系と短胃静脈系であるが,そのほかに後胃静脈(無名静脈)や下横隔膜静脈などが関与する.われわれの食道静脈瘤を伴う肝硬変患者65例に対する経皮経肝門脈造影の検討では1七全例で左胃静脈が食道静脈瘤の主要な供血路となっていた.すなわち,左胃静脈単独例は27例(41%)で,他は左胃静脈とともに後胃静脈,短胃静脈が静脈瘤を形成しており,短胃静脈坤後胃静脈のみが食道静脈瘤の供血路となっている症例は認められない.

 

 胃静脈瘤は食道静脈瘤と同様に門脈圧亢進症における側副血行路の途中に発生する.しかし,食道静脈瘤に比べすたれ徐静脈を有さないため血流の緩衝部分がなく,門脈血流を直接反映して血流量が多い.胃腎シャントを有している例は少ない.噴門部後壁,大弯および噴門から穹窿部に連続する静脈瘤は後胃および短胃静脈から主として供血され,睥肖腎シャントを有している例が多く,穹窿部の静脈瘤は主として短胃静脈から供給され,全例脾胃腎シャントを有しており,食道静脈瘤との交通はまずみられない.

 

 4.食道静脈瘤の圧と張力

 

 前述のGarcia-Tsaoら6〕は,出血例では非出血例に比し門脈圧が有意に高かったと報告している.しかし門脈圧は側副血行路の発達のパターンにより変化し,また食道静脈瘤との間には圧勾配が存在し,食道静脈瘤血部のHemodynamicsを的確に表現しているとは言い難い. Rigauら13)は,静脈瘤内圧測定装置,すなわちendoscopic gauge を用いて,出血例47例,非出血例23例の静脈瘤内圧を計測し,両群のHVPGに差がないにもかかわらず,静脈瘤圧は出血群で有意に高かったとしている.また彼らはLaPlaceの法則を用いて,静脈瘤壁のtension (張力)を計算し,出血例では非出血例に比し2倍以上の高値を示した.つまり静脈瘤内圧が高く,直径が大きく,壁が薄い静脈瘤はtensionが高く出血しやすいということになる.さらにKleberらは,直接穿刺により食道静脈瘤内圧を計測したところred colorを有する静脈瘤では有さないものに比べ有意に高圧であったとしている.今後,器具の改良により静脈瘤内圧が容易に計測できるようになれば,内視鏡所見とともに静脈瘤出血の予知に大きな助けとなるであろう.

門脈血管抵抗の上昇

 

 従来から,肝硬変の再生結節による肝血管床の機械的閉塞は門脈血流に対する抵抗を生じさせる重要な因子と考えられていたが,現在では必ずしも支持されていない.

 

 一方, Disse腔内の線維増生け類洞径を減少させ肝血管抵抗を上昇させる.またDisse腔内の線維沈着の量と類洞圧(門脈圧の指標)との間に相関があることが明らかにされている。 また再生結節を伴わない脂肪肝やアルコール性肝炎では,脂肪や水分の蓄積による肝細胞の肥大が門脈圧を亢進させる.さらに肝血管系にはadrenergic receptorが存在し,複雑な神経液性因子による調節を受けている2).また類洞周囲や線維隔膜の中には収縮する筋線維芽細胞が存在することが知られている.この細胞かエンドセリンやサブスタンスPにより収縮し,NOにより弛緩することが明らかにされ,肝血管抵抗の増大に関与していると考えられている。

 

 以上のように微細な肝内血管床での形態学的変化と機能的変化が重なり合った結果,門脈血管抵抗が上昇し門脈圧亢進が発現する(“backward' low mechanism).

 

 2.門脈流入血流量の増大

 

 肝内血管抵抗増大の結果として発現する門脈圧亢進によって血管抵抗の少ない側副血行路が発達するが,門脈圧九進は依然として持続する. Ohmの法則に従えば,門脈系の血管抵抗は全休として減少し,門脈圧は低下するはずであり矛盾している.したがってこの現象を理解するためには,門脈圧亢進症におけるhyperdynamic circu]ationの存在を理解する必要がある これは末梢血管拡張(末梢血管抵抗低下)と心拍出量の上昇(側副血行路の発達,血漿量増大,微小循環のA一Vシャント)によって特徴づけられる.

 

 グルカゴンやNOに代表される血漿の血管拡張物質は,生産の増大や側副血行路形成に伴い増加し,その結果内臓や末梢の血管は拡張し抵抗は低下する.さらに血管収縮因子としてのカテコラミンに対する血管の感受性の低下が血管拡張を促進しているとも考えられている.また内臓血管拡張の結果生じた有効循環血漿量の低下はRenin-Angiotensin-Aldosterone系を剌激しNa-水貯留を来たい℡漿量を増大させる剔 このようなhyperdynamic circulationは全身および内蔵血流を増大させ門脈圧亢進症を維持してゆく(“forward”flow mechanism).

 以上のように門脈血管抵抗の上昇と門脈流入血流量の増大という2つの要因が門脈圧亢進症の発生とその維持に関与している。

大酒家慢性肝炎

 アルコール性肝障害のなかには組織学的にみて,ウイルベ性の枚性肝炎と全く区別のつかない症例があり,大酒家慢性肝炎としてアル」ニル性肝障害の病やとすることが提案されている.組織学的には慢性肝炎とアルコール性肝線諄症の両者の所見が同時にみられる.したがって,大酒家のウイルス性慢性肝炎との鑑別が最も重要であり,血清ウイルスマーカーの検査は必須である.肝機能検査では,アルコール|生肝線維症とほぼ同様の値を示すが, GDH/OCT比が他のアルコール|生肝障害に比して有意に低い値をとり,他のウイルス性慢性肝炎に比して血清GDH活性が有意に高い値をとることから,本病型の診断はある程度可能である。

 

 アルコール性肝硬変

 

 アルコール|牛肝硬変は,アルコール性肝障害の終末像であり,その病態は肝実質細胞の機能低下,門脈圧亢進および肝循環障害という肝硬変に共通の因子によって規定されており,他の型の肝硬変と区別することは必ずしも容易ではない.各種肝機能検査に関しては, y-GTP活性,GOT/GPT比,血中中性脂肪量が非アルコール性肝硬変に比して有意に高く,アルコール性肝障害の特徴が比較的よく反映されている.また,他の原因の肝硬変に比べ,肝腫大とクモ状血管拡張,舌炎,末梢神経炎やDupuytren拘縮,耳下腺腫脹を認める例が多いのがアルコール性肝硬変の特徴であり,このような身体所見を有する患者では,飲酒歴の正確な聴取が重要である.

 

 

 1.禁 酒

 

 アルコール性肝障害の発生機序の詳細に関しては未だ完全には解明されていないが,過重Uの飲酒が直接の引き金になっていることには異論はなく,したがって,その要因の排除,すなわち禁酒が治療の基本であり,特に重症でない限り,禁酒と食事療法によって肝障害は速やかに改善する.

 

 アルコール性肝障害の治療と予防には禁酒することが必須ではあるが,長期にわたって絶対的な禁酒が必要か否かについては,アルコール性肝障害の病型と患者の自己管理能力の有無によって異なる.脂肪肝やアルコール|生肝線維症では,飲酒総量が病態進展の決定因子であるので,ある程度の自己管理能力のある人では,反動的な飲酒量の増加を防ぐ意味でも,日本酒にして1日平均2合にしたほうがいい。

 

 飲酒の急激な増加により発症するアルコール性肝炎は,一般に,入院時に水・電解質異常,ビタミン欠乏をきたしていることが少なくなく,早急に輸液療法などで補正する必要がある.急性期の治療には,禁酒はもちろんのこと,安静を保ち,高蛋白・高ビタミン・高カロリー食を与える.しかし,急性期には食欲不振・嘔吐などの消化器症状の強いことが多く,食物摂取が不能となり,脳症・腎不全などの重篤な状態に陥ることがあるため,経静脈栄養が必要になることがある.また,入院(禁酒)24~72時間後にアルコール離脱症候群,いわゆる禁断症状をきたすことがあり,鎮痛剤やマイナートランキライザーの投与も必要である.また,アルコール性肝炎の病態は,肝硬変をしばしば合併しており,食道静脈瘤の破裂や腹水,さらには肝性昏睡や腎不全などに対しても常に留意しておかねばならない.

アルコール性肝線維症

 

 

 わが国に最も多く認められ,肝に脂肪の沈着,肝炎および肝硬変の所見がなく,特異な形の線維増生か口立つ病型である.本症には特徴的な検査所見はなく,臨床症状および検査成績のみからはアルコール性肝線維症の診断は困難である.したがって,早期の積極的な治療を必要とするアルコール性肝炎では,臨床的診断基準に従うのが実際的である.アルコール性肝炎は症状が極めて軽度のものから急性肝不全の状態を呈するものまで幅広く存在し,特に後者の状態では,初診時の治療が予後を左右する.黄疸,発熱,肝腫大が高頻度にみられ,時に腹水,浮腫,脾腫も認められるが,腹水は,肝硬変を伴わない時でも出現することがある.また,肝腫大は最も特徴的な所見であり,一般に圧痛を認めることが多い.なお,肝外閉鎖性黄疸との鑑別を要することが少なくなく,発熱・黄疸・上腹部痛・白血球増多などの所見が揃うと外科的黄疸と間違われることがあり,開腹した場合は予後は極めて不良であるので,注意が必要である.