モーセレーターを使った剥離TURP


ふつう100gを超える腺腫の肥大はめったにありません。しかし、時には想像を超える大きさの腺腫があります。ある医師から聞いた話では、187gの腺腫が最大で、剥離TURPで手術しても2時間かかったそうです。副作用のTURP反応を起こさないとされるぎりぎりの時間です。

手術法の改良に、新たなテーマが見つかったわけですが、これはレーザー光線による前立腺治療に伴って開発された「モーセレーター」を使うことで解決を見ることになりました。

レーザー光線で膀胱内に脱落させた腺腫に吸い付いて回収する操作を、モーセレーターが繰り返して組織を摘出するというメカニズムでした。1分間に5g以上吸い出す能力があるため、たとえ100gの肥大腺腫であろうと20分以内にすべてを摘出できます。これで、手術時間が大幅に短縮できるようになったのです。

空気メスは放電するため、潅流液に生理食塩水は使えませんが、レーザー手術には生理食塩水が使えます。そのため、手術時間がいくらかかってもTURP反応を起こしません。これは利点なのですが、反面、レーザー手術は時間がかかり、切り過ぎや切り残しも多くなります。再発例も多く、手術事故の心配も強いです。ソ連高価なこともあって、ほとんど普及していない医療機器でした。

しかし、これが巨大な選手に対する平岡式剥離TURPの弱点をカバーし、「新平岡式剥離TURP」を完成させたのです。

モーセレーターを使った剥離TURPによって、TURP反応を全く起こさずに手術することが可能となりました。平岡式剥離TURPでも、基本的には取り残して再発を起こすことはありません。それにプラスして新平岡式剥離TURPが開発されたことで、巨大な器械でも、よりきれいな切除ができ、かつ安全な手術が確保されたのです。

手術は、時間が短ければ短いほど患者に負担が少なくなります。しかも、再発の可能性のない確実な手術が要求されます。その要件を満たした平岡式剥離TURPと新平岡式剥離TURPは、間違いなく21世紀の、それも本来の意味での「ゴールドスタンダード」といえるものです。


新平岡式剥離TURPの手術手順

① 切除機の挿入
切除機を尿道から膀胱内に挿入します。切除機の長さは約21センチで先端が十分に膀胱内に入る長さです。直径は8ミリですが、尿道が広がるので抵抗なくスルッと入ります。

② 内視鏡による観察
まず内視鏡で膀胱内や尿道内を観察します。膀胱内の合併症の有無や前立腺の肥大状態をチェックするのです。

③ マーキング
先端にループ型電極と呼ばれる丸い形の電気メスを付け、外尿道括約筋と前立腺腺腫の境界線の左右に印をつけます。これをマーキングといいます。

④ 尿道粘膜輪状切開
先端をナイフ形電極という電気メスに変えて、マーキングに沿って尿道粘膜を輪状に切開します。

⑤ 剥離操作
再度、先端を剥離子に替え、腺腫を外腺から剥がしていきます。これを剥離操作といいます。
(これ以後は、肥大腺腫の大きさで術式が異なります)

⑥ (小さい腺腫の場合)完全切除
30グラムに満たない小さな腺腫であれば、潅流液を流しながらループ型電極で腺腫のすべてを切除します。

⑦ (大きい腺腫の場合)腺腫への切り込み
30グラムを超える大きな腺腫であれば、先端にナイフ型かループ型電極と呼ばれる電気メスを使って多数の切り込みを入れます。

⑧ 完全剥離(膀胱内脱落)
肥大した腺腫を前立腺被膜から完全に剥離切開して、膀胱内に脱落させます。

⑨ モーセレーターによる細切・吸引・摘出
1分間に5グラム摘出するモーセレーターで、膀胱内に脱落した腺腫を細切・吸引・摘出します。このときの潅流液は、TURP反応を起こさないように整理食塩水を使います。これにより、どれほど大きな腺腫であろうと、時間をかけて完全に摘出することが可能となります。

しかも、実際にはモーセレーターの使用で、手術時間は十分に短縮され、出血量も減少しました。この術式の開発により、開腹手術しか方法がないと思われていた巨大な選手にも、再発の心配がない手術が可能となりました。

がんの疑いのある例では、手術は、外腺の一部を切除して終了します。これを内腺部分の切片と一緒に病理検査に出します。

これが新平岡式剥離TURPの術式の手順です。小さい腺腫であれば平岡式TURPで完了するし、大きい腺腫なら新平岡式剥離TURPを併用すれば、すべての腺腫を取り除けるわけです。

また、一般的な経尿道的前立腺切除術(TURP)や回復術は、外腺の組織を採取できませんが、剥離TURPや新剥離TURPには、内腺、外腺とも組織片を採取して病理検査ができるという利点があります。これは世界で初の技術です。モーセレーターで採った組織標本は、電気メスで切ったものとは異なり火傷もなくきれいな標本です。そこそこに大きさもあって、がんの病理検査に適応できると歓迎されています。

しかもこれは、前立腺の併発がん発見に大きく寄与しています。がん以外の手術で偶然に発見されたがんを「偶発がん」といいますが、その発見パーセンテージが非常に高いのです。一般的なTURPで実績の高い大学病院の偶発がん発見率が6.8%であるのに対し、剥離TURPや新剥離TURPでは19%です。

健康な高齢者でも、約40%に前立腺がんが潜在しているとみられていますが、こうした発見率の高さによって、それが裏付けられるように思えるのです。