ワーファリン服用と外科手術、食事について:新薬『ダビガトラン』

(1)弁膜症手術後のワーファリン

ワーファリンを飲むと血液がサラサラになります。薬を飲み血液を固まりにくくして心房の壁の内側、機械弁の金属の板の表面などに血の塊ができないようにすること、これが抗凝固療法です。

ワーファリンを飲んでいると、出血がなかなか止まりにくくなるという副作用があります。ちょっとカミソリで切って血が出たとき、普通の人が指で2~3分押さえていれば止まるのに、5~6分あるいはそれ以上かかります。この薬の効き具合は、外来でほんの少し血液を採れば検査できます。よく使われるのがPT-INRという検査です。あまりサラサラになり過ぎると、出血のほうが心配なので、効き具合は機械弁の場合、だいたいPT-INR1.6から2.8くらいにコントロールされます。機械弁の場合、多くの病院では月に1回の採血検査を行います。1.3だったら効きが悪いので量を1錠増やす、3.3だったら効きが強くて出血しやすいので1錠減らす、というような調節を月に1回、数値が安定している人は2か月に1回くらい行います。

ワーファリンは弁膜症の手術後以外でも使用されることがあります。たとえば心房細動という不整脈があれば、服用が必要になります。冠状動脈約バイパス手術を行っていれば、手術後の血栓予防のためにワーファリンが処方されることもあります。

弁形成の場合、リングという弁輪の形を整える人工物をよく使います。外側の化学繊維の部分は約2か月で自分の細胞でカバーされ、血栓が付きにくくなります。よって、ワーファリンの服用は術後の2か月程度で十分です。生体弁の場合約3か月でワーファリンを中止、アスピリンなどコントロールしやすい薬に変更されます。ただし弁形成が成功しても、生体弁で弁置換しても、手術後に心房細動が続いていれば「脳血栓などの血栓症を予防するためにワーファリンは飲み続けましょう」ということになります。機械弁の場合は終世にわたって、ワーファリンの服用を続けなければなりません。

(2)ワーファリンと食事

ワーファリンによる抗凝固療法は食事の影響を受けます。食品中のビタミンKは摂取量が多いとワーファリンの効き目を減弱させるので、ビタミンKが多く含まれる納豆、クロレラ、青汁などは原則として禁止されています。そのほか緑黄色の野菜、海藻なども摂り過ぎに注意しなければなりません。だからといって野菜の量を減らす必要はありません。ビタミンK摂取量を1日200~300μg以下にすべきと考えられています。

これらはよく「すべて食べたはいけないもの」と誤解されるのですが、そうではありません。また100gあたりの分量であることを計算に入れてください。緑の野菜を全く食べなくなる人もいるそうですが、栄養のバランスを考えるとそれはよくありません。ワーファリンを服用しつつも、バランスの良い食事を心がけて、適度の緑黄色野菜を摂ることが必要です。このような情報は手術前に患者自身が人工弁をどちらにするか決定する前に知らせる必要があります。それにしても若い年齢から機械弁とともに生きてゆくのはなかなかたいへんだということがわかります。

(3)ワーファリンと外科処置

抜歯のときに3日間ワーファリンの服用中止という指示が以前はよくされていました。が、最近は歯科医でも6割以上がワーファリンを中止せずに抜歯してくれるそうです。抜歯の際にワーファリンを中止してもしなくても出血に差はない、という医学論文も出たからです。胃内視鏡でポリープをとったり、悪性の病気が疑わしいところの組織をつまんでとる検査時に、ワーファリンを1週間中止してくださいと言われた、などということがいまだにあるそうですが、これはダメでしょう。

基本的には心臓の主治医に相談ですが、機械弁ではなるべく減量にとどめ、中止は避けてください。出血を伴うような外科処置でも、大きな手術でも、入院してヘパリンという微調整できる注射薬を点滴しながらワーファリンを中止して行うのが安全です。

 

ワーファリンにかわる新薬

以前からワーファリンの不都合を克服すべく、新しい血液サラサラの薬の研究、開発が進められてきましたが、ダビガトランという新薬が、心房細動患者の脳梗塞予防という適応で、日本でも使用できるようになりました。出血合併症が少ない、血液チェックがいらない、食事や薬剤の影響は少ない、などの利点はありますが、人工弁の抗凝固療法としてワーファリンにかわって使うことについては、まだまだ検討する時間が必要と思われます。