新薬の研究開発と製造販売承認までのプロセスについて

医薬品産業の特徴は知識集約と高利潤率で言い表すことができます。高度な科学技術を集約した新薬開発の活動は、不治の病に冒された人々に大きな希望を与える光です。そして画期的な新薬は高く評価され開発者に莫大な収益をもたらすので、高利潤率もまた医薬品産業の光です。他方、薬害エイズ事件で問われた業界・行政・医学界の不明朗な関係は、この産業の影でもあります。

酒は百薬の長といわれるように「薬」といわれるモノは無数にありますが、ここでは薬事法に該当する物品を医薬品といいます。医薬品の製造・販売を勝手に行うのは薬事法に抵触し、厚生労働大臣から事業者免許を取得しなければなりません。医薬品の製造または輸入を業とする免許は元売承認と呼ばれています。薬を患者に販売する薬局、製薬企業と病院・薬局を取り持つ卸売事業者も免許が必要です。

医薬品取り扱い事業者について述べましたが、商品である医薬品についても一品ごとに厚生労働大臣の承認を得る必要があります。この時点での厚生労働大臣の承認は、物質を医薬品として製造販売していいというものですが、実はこれだけでは商売になりません。健康保険が適用にならない医薬品を使用すると、その医薬品だけではなくすべての医療行為に対して保険が適用されなくなり患者負担となります。患者負担が大きい医薬品の販路が拡張されるはずはなく、保険適用の手続きが是非とも必要です。現在、医薬品として認可されているのは約1万3千品目ほどであり、そのうち1万1千品目が保険適用となっています。

医薬品誕生のきっかけは研究者のひらめきです。ひらめきに基づいて科学的実験が繰り返し行われ、新しい化合物が誕生します。新化合物はまだ薬ではありません。短時間のうちに酸素と結合して変質するような化合物は医薬品には適さないので安定性を確認しなければなりません。安定性が確認されても新化合物はただちに医薬品としては認められません。実際に治験に使ってみなければ効果のほどはわからないし、強い毒性があれば人間には投与できないからです。そこで、動物実験が行われます。

動物実験の結果が思わしいものであれば人間に対して試験的に使用することとなりますが、一般にこれを「治験」と称しています。治験には臨床第Ⅰ相試験から第Ⅲ相試験の3段階があります。フェイズ1では一定数の健常人に投与して有効性と安全性、特に副作用の検証がなされます。副作用が大きければ治験は中止されます。フェイズ2では一定数の患者に投与します。この段階の主な目的は、適切な用法容量を探ることにあります。過剰投与は人体に少なからぬ悪影響を及ぼし、過小では効き目がありません。また同じ量を投与しても、服用するタイミングでは効き目に差が出ることもあります。

フェイズ1・2において、有効性と人体への悪影響の少なさが確認されるとフェイズ3に進みます。ここでは健常者・病人を問わず対象者を選択するとともに人数を増やして、新化合物の有効性・安全性に対する最終確認が行われます。治験が終了し、製薬企業が当該物質は実用化が見込まれると判断すれば、治験データを添付して厚生労働省に医薬品としての製造・販売の承認申請を行います。

申請を受けた厚生労働省は治験データのチャックそのほかの審査を行い、薬事・食品衛生審議会に承認の是非を諮問します。審議会は改めて専門的観点から治験データなどをチェックして承認または却下を厚生労働大臣に答申し、答申を受けた厚生労働大臣は決定を下します。厚生労働大臣の承認を得れば、当該化学物質は医薬品として製造され市場に出回ることになります。上市=保険適用ではなく、保険適用には別の手続きがいります。

以上、新薬の研究開発と製造販売承認までのプロセスを述べましたが、これは画期的新薬を想定した話です。ところが実際には、新たに承認される薬のほとんどが改良品か模倣品です。従来の製造工程の一部を改変して治療効果を高めたり使いやすくしたりしたのが改良品で、改良の工夫がみられないのが模倣品です。模倣品は「ゾロ新」と称され揶揄されています。ゾロ新であっても厚生労働省の承認は必要です。