淋病の発生機序:淋菌の上皮細胞下侵入


淋菌は、その表面にある線毛やOpa蛋白を媒介して、泌尿生殖器系粘膜上皮細胞に付着します。淋菌の付着は、表面に繊毛を持たない粘膜上皮細胞に起こるのが普通です。淋菌の線毛は鞭毛よりも細く、短いフィラメント上の突起物で、グラム陰性菌の菌体表面に多数存在します。線毛やOpa蛋白はアドヘジンと呼ばれ、付着の特異性を決めています。アドヘジンと粘膜上皮細胞の表面にあるレセプターとの間の特異性、すなわち鍵と鍵穴の関係が合致したときにのみ付着が起こります。付着は感染初期反応として重要なステップであって、これが起こらないと淋病にはなりません。付着によって足がかりを得た淋菌は、そこで増殖します。一方では、菌体表面を構成するリポオリゴ糖(グラム陰性菌のリポ多糖の一種ですが、普通のリポ多糖と異なりO抗原をもたないもの)の毒作用によって、近くにある繊毛をもった細胞を剥がして脱落させ、そのため繊毛による菌排除機構がだめになるので、菌は奥へ奥へと広がっていきます。他方では、上皮細胞の間あるいは上皮細胞内に潜り込んで、上皮細胞下に抜け出し、上皮細胞下の結合組織にまで侵入します。

淋菌は上皮細胞下の結合組織において盛んに増殖し、連続的に直接広がっていきます。そのころになると、局所では上皮細胞は剥がれ、粘膜下には小さい化膿巣がたくさんできて膿がたまってきます。一方、淋菌の成分によって補体が活性化されたため、菌体表面の内膜に膜障害複合体(MAC)と呼ばれるロケット弾のようなものがはまり込んで、殺菌が始まります。さらに局所に反応がシグナルとなって、全身の好中球に集合命令が出され、淋菌は集まった多数の好中球に喰われます。このため、病巣から取った膿を色素で染めて顕微鏡で見ると、多数の淋菌が好中球の中に見られます。これはいわば淋菌とヒトの防御機構との戦いの残骸です。淋菌の中でも殺菌や植菌に抵抗する力の強い特殊の変わり者は、血管内にまで侵入し、血液の中で増殖し、全身のいろいろな場所に運ばれます。関節の内面は特に淋菌が好む場所で、全身に同時に関節炎が多発します。心臓や脳脊髄膜も後発部位で、心内膜炎や脳脊髄膜炎をおこします。全身感染は、遺伝的に補体成分を欠損した患者においてもみられます。これは宿主側の生体防御機構が異常なために起こるもので、この場合の原因菌は特に病原性の強い変わり者とは限りません。