回帰熱の再発性に関係するVMP抗原の遺伝子について


ボレリア・ヘルムシアイは、新大陸に地域流行を起こすダニ媒介型ボレリアの一種で、回帰熱の回帰性(再発性)に関係のある変わり者の発生する遺伝学的な仕組みは、主にこの菌種で調べられています。このボレリアでは、単一菌から少なくとも26の変わり者が生ずることが知られています。これらの変わり者は、試験管内でも、ボレリア一個あたり、一回の分裂あたりおよそ1万分の1くらいの頻度で生じます。これらの変わり者が生じるのは、可変主要蛋白、VMPと呼ばれる表面蛋白に変化が起こったためです。いいかえると、VMPの抗原性が変化したのが回帰熱の再発性に関係のある変わり者ということです。

ボレリアは多数の線状プラスミドをもっています。プラスミドというのは、染色体とは別に独立して存在します。通常は染色体よりもうんと小さいけれども複製可能な遺伝体です。普通は環状のDNAですが、ボレリアは例外的に線状のプラスミドをもっています。回帰熱の再発性に関係する変わり者のVMP抗原の構造を決めている構造遺伝子を、仮にVMP遺伝子と呼んでおきます。ボレリアには多数のVMP遺伝子があり、この線状プラスミドの上にあるVMP遺伝子座位に位置しています。しかし、実際に転写が起こって、光源として形質発現しているのは、ある特定の線状プラスミドの上にあります。ただ一つのVMP遺伝子だけで、残りの線状プラスミドの上にあるVMP遺伝子座位では、転写が起こらないために抗原として発現していません。発現しているのは、VMP遺伝子の転写や翻訳のために必要なプロモーター部位がVMP遺伝子座位に備わっていないからです。これを発現VMP遺伝子座位といいます。発現VMP遺伝子座位を担っている線状プラスミドを発現プラスミドといいます。これに対して発現していないのは、VMP遺伝子の転写や翻訳のために必要なプロモーターがVMP遺伝子座位にないためで、これを非発現VMP座位といいます。非発現VMP遺伝子を担っている線状プラスミドをサイレント・プラスミドといいます。

どの変わり者のVMP抗原を作り出すかは、どのVMP遺伝子が発現VMP遺伝子座位に位置するかできまります。タイプ7とタイプ21と名付けられた変わり者の間の変化が最もよく調べられているので、これを例にして説明します。タイプ7ボレリアもタイプ21ボレリアも、タイプ7の『非発現VMP遺伝子座位が載っているタイプ7サイレント・プラスミドと、タイプ21の非発現VMP遺伝子が乗っているタイプ21サイレント・プラスミドを含め、非発現VMP遺伝子座位が乗っている複数のサイレント・プラスミドをもっていると推定されています。タイプ7ボレリアでは、サイレント・プラスミドのほかに、タイプ7発現VMP遺伝子を持った発現プラスミドがあり、それが発現して、タイプVMP抗原を作っています。