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 新薬メーカー間の競争と、新薬メーカー対GEメーカー

 新薬メーカー間の競争の本質は、まさに研究開発にある。新薬メーカーの競争優位は、いかにして効能の高い薬剤を開発することができるかにかかっている。

 これまでは、生活習慣病領域というマスマーケットに開発余地が多く残されていたため、他社と競合しない領域で効能の高い薬剤を開発しさえすれば、特許期間中は安定的に収益をあげることができた。この点て、電機や自動車業界とはいささか様相を異にする。もちろん、これらの産業でも特許取得で参入障壁を築くことは重要だが、製品まるごとが知的財産として保護されることは稀である。

 特許による保護だけではない。たとえば、電機・自動車業界とは違い、医薬品業界では薬価は政府が決めるため、純粋な価格競争は行われない。当然、薬の安売りキャンペーンや特典サービスなどは存在しない。MRが医師に薬剤を説明して回ることで病院等での薬剤の採用が決まるため、MR間での競争は存在するが、医師とMRの関係は、一般的な業界におけるメーカーと消費者の関係のように絶えず見直しを迫られるものとは異なる。

 以上を勘案すると、新薬メーカー同士の競争は、新薬の開発とMRの力に依るところ大きかった。

 しかし、新薬メーカーとGEメーカー、あるいは新薬メーカーとOTCメーカーといった異なる市場間に目を転じると、熾烈な競争を目の当たりにすることとなる。

 まずは、新薬メーカーとGEメーカーの競争について見ていくことにしよう。

 新薬メーカーにとってGEメーカーは、その存在だけで脅威となる。特許が切れればすぐ、それまで新薬メーカーが独占してきた製品市場にGEメーカーが大挙して押し寄せ、価格競争の渦に飲み込まれてしまうからだ。特にアメリカでは、特許が切れた翌年には80%以上のシェアをGEに奪われてしまう。ANDA(簡易承認審査)の「パラグラフⅣ」によって、特許切れ前でも新薬メーカーの製品市場をGEメーカーが侵食してくる可能性もある。

 そのため新薬メーカーは、GEに市場を侵食されないためのさまざまな施策を講じてきた。そのひとっが「プロダクトーライフサイクル・了不ジメント」である。これは、同一薬効の剤型・効能に改良を加えてフランチャイズ化することにより、その薬剤を延命させるという戦略である。

 第一製薬クラビットが2006年2月の特許切れ直前に薬効追加によって特許を延長したのは、この事例にあたる。また、薬効追加など、薬自体に具体的な改善を伴わなくとも「市民請願」によって特許延長をはかる戦略もある。これは、GEの有効性や安全性に疑義を呈することで、 その問題が決着するまでGEの承認を遅らせる手法である。最近ではアステラスが、プログラフのアメリカでのGE承認に関してFDA(アメリカ食品医薬品局)に市民請願を行ったが、却下された。そのため、さらにワシントンDC連邦地方裁判所にFDAに対する訴訟を提起していたが、最終的にはこれを取り下げている。

 もう少し過激な事例として、三共メバロチンでの特許訴訟が挙げられる。三共は防衛的な意味で、メバロチンのGEの販売を始めた日新製薬などに対して、特許侵害として1億円を超える損害賠償を請求した。売上規模の小さいGEメーカーにとって、敗訴は収益面での大きなダメージになる。この事例は後に和解したが、こうした手法で新薬メーカーがGEメーカーを攻撃していたこともあった。

 また、AGEを用いた手法で、GEによる市場の侵食を最小限に食い止めようとする事例もある。新薬メーカーやその子会社、または特定認可されたGE企業から、自社製品の特許切れ直前に販売されるGE医薬品を「AGE」と呼ぶ。独占的な販売期問を得たり、他のGEメーカーが参入する前に顧客基盤を固めたりするのである。

 たとえばGSKは、パキシルやウェルフリントンSRといった薬のAGEを販売している。またファイザーは、06年に主力製品だったゾロフトの特許が切れた際、子会社のグリーンストーンを介してAGEを販売し、4億8000万ドルを売り上げた。ファイザーゾロフトが特許切れした06年には、その売上を前年から11億4600万ドル減の21億1000万ドルまで落としたものの、AGEを販売することによって実質的な売上減を半分程度に抑えることができた。

 以上の事例は、新薬メーカーとGEメーカーの攻防の一部である。新薬メーカーとGEメーカーのあいたには、特許切れ後もできるだけその製品から収益をあげたい新薬メーカーの思惑と、特許切れ後はできるだけ早期にその製品市場を席巻して競争優位性を築きたいGEメーカーの思惑が激しく交錯していたといえる。