大正製薬が同仁医薬化工およびアボットとパートナーシップ契約を結んだ理由

 同仁医薬化工は、医療用医薬品やOTCの製造を手がける医薬品メーカーである。また、同社は、販売を他のメーカーに委託する、医薬品の開発・製造に特化した企業である。そして、「ドラッグデリバリー・システム」(以下DDS)と呼ばれる特殊製造技術を有している。実は、この特殊技術こそが、大正製薬が同社をパートナーとして選んだ理由であると考えられる。

 端的にいえば、DDSとは、患部への薬剤送達を制御することで、薬剤の効能を落とすことなく剤型を変化させることができる技術である。一般的に、薬剤は必要なときに必要な量を患部に送達させるのが理想的であるといわれる。DDSのおかげで、理想的なかたちで患部に薬剤を送達することが可能となった。また、DDSは、剤型の変化(たとえば、飲み薬から塗り薬に薬剤の形を変えること)を施す際に大変重宝されている。

 ところで、剤型の変化にはどのような意味があるのか。実は、医薬品企業にとって剤型の変化は製品のラインアップを増やすきっかけとなるのである。先にも説明したとおり、OTCメーカーはシリーズ化製品を発売することで販売実績を伸ばしていく経営戦略を得意としてきた。製品のシリーズ化で収益を伸ばしてきた大正製薬にとって、DDSは寄与度が大きいといえるのではないか。事実、同仁医薬化工は「ジクロフェナク製剤」の新剤型を国内で初めて開発・承認を取得しており、大正製薬はその助けを借りて「ジクロテクト」のシリーズ化にこぎっけている。

 まとめると、大正製薬が同社をパートナーとして選んだのは、外用消炎鎮痛剤領域の薬剤製造の際にDDSという特殊技術が必要だったからである。しかし、それだけではない。DDSという特殊技術を「シリーズ化によって収益を伸ばす」という経営スタイルに活かすという目論みもあったのではないかと考えられる。

アボットとパートナーシップ契約を結んだ理由

では、アボットを選んだ「ストパン」のケースはどうなのか。どのような思惑があってパートナーシップ契約を結んだのか。この疑問を以下で検証していこう。

 検証のために、まずはアボットの概要を見てみよう。アボットは、医療用医薬品、診断薬、医療機器、栄養剤事業の製造・販売を手がける企業である。同社はグワーバルの販売基盤を有しており、いわゆるメガファーマの一角を担う企業である。しかし、同社はOTC事業を保有しておらず、したがってOTC販売網も持っていない。大正製薬はここに着目し、パートナーシップ契約を結んだのではないか。

 もちろん、パートナーシップ契約を結んだのは、この理由だけではない。契約料やスイッチ成分の薬効領域が自社に必要か否かといったことも勘案したうえでの行動であるに違いない。しかし、流通網が重複しないアボットとパートナーシップを結んだことは、両社の相互補完関係を構築できたという点で高く評価することができる。

 具体的に説明すると、OTCメーカーの大正製薬は、スイッチ成分を保持していないが、OTC流通網は保持している。新薬メーカーのアボットは、スイッチ成分を保持しているが、OTC流通網を保持していない。それゆえに、OTC流通網を持だない新薬メーカー(OTC事業非保有)とOTCメーカーは相互補完関係を構築できるのである。

 以上より、スイッチOTC発売の際には、OTC販売網そのものを保有していることがきわめて重要であることがわかった。なぜなら、新薬の知見(スイッチ成分)を保有していても、販売基盤がなければ消費者に製品を届けることができないからである。

 スイッチ成分を持たずにスイッチOTCで成功するには

 これまで、「ジクロテクト」と「ストパン」という大正製薬の2つのスイッチOTC製品の事例をつぶさに分析してきた。ここからは、これら2つの事例を踏まえて、新薬の知見(スイッチ成分)を自社で保有していない企業がスイッチOTC事業で成功するための要因を抽出していきたいと思う。

 「ジクロテクト」では、自社にない特殊技術をアウトソーシングによってただ補完しようとしたのではなく、その特殊技術がTンリーズ化によって収益を伸ばす」という大正製薬の経営スタイルに活かすことができると判断して企業選定を行ったことが成功要因といえる。

 また「ストパン」では、アボットがOTC販売チャネルを抱えていないという点に着目し、相互補完関係を構築できるパートナーシップを締結したことが成功要因となった。

 つまり、同仁医薬化工のケースでは「企業探索の目利き力」が、アボットのケースでは「企業探索の目利き力」と「OTC流通網」が成功へのカギだった。

 千載一遇のチャンス

 さて、分析を通じて、新薬の知見(スイッチ成分)を保有していない大正製薬がスイッチOTC事業で成功を収めるカギは、同社の「資金力」「企業探索の目利き力」「OTC流通網」にあると結論づけることができた。