パブロンの売上げ停滞とトクホの台頭

 近年、既存高認知製品活用戦略は通用しなくなってきている。その例として、先はどのパブロンシリーズとリポビタンシリーズの2つの製品の近年の売上高推移を見てみよう。

 まずは図表9-2をご覧いただきたい。大正製薬は、既存高認知製品活用戦略のもと2004年度以降も積極的にパブロンのシリーズ化製品を投入しているが、売上は伸び悩んでいる。どちらの製品シリーズも既存高認知製品活用戦略がうまく機能せず、売上高の伸びが停滞してきているのである。

 では、一体なぜ、この王道ともいえる戦略が通用しなくなっていったのか。ここから、近年、OTC市場が縮小しているかたわら、サプリメントに代表される「トクホ」市場が急激拡大していることがわかる。トクホとは、「特定保健用食品」の通称で、個々の製品ごとに消費者庁長官の許可を受けて、保健の効果(許可表示内容)を表示することのできる食品である。国に科学的根拠を示して、有効性や安全性の審査を受け、特定の保健の効果が科学的に証明されているものをいう。

 実は、隣接市場である「トクホ」の著しい台頭こそが、既存高認知製品活用戦略が限界を迎えた、さらにはOTC市場の拡大が阻害された要因なのである。では、なぜトクホ市場はOTC市場からパイを奪うことができたのか。

 その理由のひとつは、OTCとトクホの広告制度の違いである。OTCの広告宣伝は、日本OTC医薬品協会が定める自主規制制度を遵守しなければならず、臨床結果を用いることが制限されている。そのため、OTCメーカーが最も強調したい製品効果を消費者にアピールすることが困難である。一方、トクホには、広告の規制がほとんど存在していない。極端な話をすると、製品の効能を強調して消費者の購買意欲を刺激することもできてしまうのである。つまり、類似する製品の機能性を想起させることを強みとしていた既存高認知製品活用戦略よりも、機能性を訴求するトクホの広告宣伝のほうが、消費者のニーズをとらえることに成功しているのである。

 もうひとつの理由は、両者の販売制度の違いである。OTCは第7章で述べたとおり、その効果や副作用の大きさに合わせて3段階の分類があり、そのうちの第2類や第3類といった比較的リスクの小さなOTCでさえも、登録販売者が常駐していなければ販売することは禁止されている。また、近年拡大傾向にあるインターネットを利用した通信販売も、OTCでは禁止されている。一方、トクホには販売チャネルに関する規制がなく、OTCで認められていない通信販売も自由に行うことができる。すなわち、OTCは販売チャネルの規制という面で圧倒的に不利な状況にあるため、すさまじい勢いで成長するトクホにパイを奪われるという状況に陥っているのである。

 以上のようにOTCは、広告宣伝・販売制度という2つの側面で制約を受けている。この点てOTCは、機能性をより強く訴えることが可能なトクホとの顧客獲得競争に不利な立場にある。また、国民の意識が治療から予防へとシフトしたことも、サプリメントに代表されるトクホ市場がOTC市場を侵食していった原因のひとつである。こうした背景から、これまでの王道戦略だった既存高認知製品活用戦略は通用しなくなってきたのである。