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神経性食思不振症(思春期やせ症、拒食症)の診断基準と治療法


 やせを主症状とする神経性食思不振症(anorexia nervosa、 以下A。N。と略す)は、過食と嘔吐を繰り返す神経性過食症(bulimia nervosa、以下B。 N。と略す)などと合わせて、摂食障害(eating disorder、 以下E。 D。と略す)と総称される。 A。 N。は思春期やせ症、拒食症ともいわれる。

 A。N。は、身体的・精神病的な原因もなく、食べることをかたくなに拒否し、最悪な場合は死にいたる極端な痩せをきたす、予後不良で最重症な心身症である。発症年齢は10歳以降がほとんどであり、10代後半から20代前半にピークがある。発症頻度は10~20代の女性の1000~500人に約1人で、男女比は1:10~20と女性に高く、最近顕著に増加し、低年齢化している疾患である。 birth order では、一人っ子の女の子、末っ子の女の子、男兄弟の中に一人いるような女の子に頻度が高い。心理的病因(自己像の混乱、女性としての成熟恐怖、完全癖、強迫傾向、兄弟葛藤など)と社会的病因(社会全体が痩せを称賛するような飽食の時代とそれにともなうダイエット雑誌・ダイエット食品の氾濫など)が複雑に絡み合って身体症状を形成している。そのうえ、身体症状が精神行動面に影響を及ぼして悪循環を形成しているという病識に乏しく、治療が難しい疾患である。長期予後では、3分の1が治癒、3分の1が慢性化、3分の1が悪化し、10年後の死亡率は10~15%、 20年後の死亡率は15~18%という報告もある。


1……診断

 診断基準は、研究班のものとICDのもの、 DSM-IVのものの3つがある。ここでは研究班のものを中心に診断方法について説明をする。

 ①標準体重のマイナス20%以上のやせ(ある時期にはじまり、3ヶ月以上続いている場合)

 ②食行動の異常(不食、大食、隠れ食い、節食、嘔吐、多食、下剤の乱用、食事時間の偏りなど)

 ③体重や体型について歪んだ認識(体重増加などに対する極端な恐怖など)
  a)肥満恐怖(やせているにもかかわらず「太りたくない」)。
  b)ボディイメージの障害(自分の体型についての認知障害)。

  下腹部や大腿部が太っていると感じる。自分と同じくらいの背格好の人はやせていると感じるが、自分はやせていないという想い。ひどくやせているのにスタイルがいいと思う。

 ④発症年齢:30歳以下

 ⑤(女性ならば)無月経

 ⑥やせの原因と考えられる器質性疾患(バセドウ病、糖尿病など)がない。

 ①、②、③、④は既往歴を含む(たとえば、マイナス20%以上のやせがかつてあれば、現在はそうでなくても基準を満たすとする)レ6項目すべてを満たさないものは、疑診例として経過観察をする。

 鑑別診断としては、脳腫瘍、内分泌疾患と精神病が重要である。


2……治療

 本人がどんなことで困っているのか、問題点は何か、家庭や学校などの環境がどのように絡み合っているのか、周囲からの協力がどの程度得られるか、などにより治療目標を立て、治療法を決めていく。医師、看護師、心理職、栄養士の治療チームで治療を確認しながら進めて行くと効果的である。

1)治療への動機づけ

 A。N。の最大の特徴は病識のなさであり、治療に消極的で、多くは治療を拒否する。生活上のストレスや悩みに対する精神生理反応として、食欲不振その他の胃腸症状が契機となり、意図的に節食を行っている病気である。家族や周囲の人々が食欲不振、胃腸症状について関心を示し始めることによって、自らの問題を解決するために持つ挫折感は緩和されるので、現状をそれほど苦痛とは思っていないことが多い。やせ過ぎの危険性と食事の重要性を繰り返し説明し、患者と家族が理解するまで充分に話し合い、患者とその家族を何とか治療の土俵の上にのせてくることが大切である。

2)初期治療、外来および入院、専門施設への紹介の判断

 発病の契機と状況をくわしく聴取し、やせ願望が主となっているか、不食の背後に対人関係や将来への悩みがあるかどうか、などを明らかにする。やせが80%~70%までであれば、学業、通学、進学などの問題を考慮した上で、外来治療を行うことが多い。この時には、カウンセリングと環境調整(親子関係・友人関係など)、食行動の修正を行う。体重が標準体重の60%未満の時や外来治療により改善のみられない時や入院治療の方が効果的と考えられる時は、種々の条件が許せば入院治療を行う。外来・入院治療にかかわらず、良い治療者一患者関係をつくることが重要である。

 入院治療の絶対的適応は、①体重が標準体重の60%未満(冬期:60%~70%)、②検査での異常が著しい場合(肝機能障害、低蛋白血症など)、③全身状態の悪化(著明な低血圧、脈圧の低下、著明な徐脈など)、④自殺の危険がある場合、⑤環境が著しく悪い場合、の5つがおもなものである。

3)治療の目標

 ①健康な体重の回復(目標体重は標準体重の90%:治療中の体重増加は週0。5 kg~1 kg)
 ②正常な食行動の回復(生理の規則的な発現)
 ③健康な体重や正常な食行動をこだわりなく維持できること
 ④社会適応(社会生活で対人関係の適応ができ、自分なりに満足した生活が送れること)
 ⑤家族が患者の正常な機能を促進する方法を見いだせること
 ⑥健康なボディイメージ、身体概念や自己のアイデンティティーの獲得

4)治療手技

a)内科的治療(精神療法の併用が重要)

 ①栄養補給法(食事療法、経鼻経管栄養、輸液療法、中心静脈栄養など):摂取カロリーが体表面積当たり1300~1400 kalにならないと体重増加は認められない。
 ②薬物療法薬物療法のみで治癒することは不可能である。生活状況や心理的状況を調節しながら、薬物療法を行うと効果的である。

b)一般的精神療法(支持的精神療法)

 ①行動療法(オペラント条件付け法、報酬学習):動きたいという希望をうまく使って行う。契約期間を結ぶ行動療法的手技も効果的なことが多い。患児が制限を受けると居心地が悪くなるような因子を複数特定し、体重が増加するにしたがって、それぞれの因子の制限を徐々に解除する。

 ②認知的行動療法:食行動、対人関係の誤った考え方を修正しながら行動療法を行う。
  「そう考えられる証拠があるだろうか」「別の視点から考えられないだろうか」「仮にその視点が正しいとしたらどうなるだろうか」など。

c)その他の心理療法

 ①精神分析的療法:患者にとって無意識的な問題の本体に気づかせ、その葛藤に対する防衛反応を、拒食というような幼稚なやり方ではなく、もつと現実に適した方法で試みるように導く。

 ②交流分析精神分析的療法):A。N。の患者は自己否定的な構えをもっているので、これを自己肯定的な構えにして、『このままの自分でもよいところがある』と思えるように導くことにより対人関係の調節を行う。

 ③箱庭療法:言語的表現が困難な患者に、言語外の方法で自己を表現し、再統合させる。

 ④芸術療法:絵画療法など。

 ⑤家族療法:家族を一つのシステムとみなし、あらゆる症状は家族ストレスの対応処置として維持されていると考え、食行動異常は、家族内の葛藤あるいは葛藤回避に使われ、家族はかたくななルールに縛られているとみなす。家族への各種の対応を、望ましい形で充分に行う必要がある。

 ⑥無月経の治療:低T、症候群などをはじめ、ホルモン異常を認めることが多いが、食事量が増え、体重がもとに戻るにしたがって、徐々に改善されるため、ホルモン療法は原則として行わないからである。A。 N。の95%は第二度無月経である。女性を否定する目的のために拒食を行っている患者もいることを理解した上で、体重が回復し、女性としての自分を肯定的に受け入れられるようになってから治療は行う。ただし、以下の場合には治療を必要とする。

   i)るいそうの程度は強いが、無月経であることを心配する症例
   ii)体重は回復したが、無月経を持続する症例
   lii)既婚で挙見を希望する症例

d)治癒判定基準

 体重が回復し、標準体重の80%以上の体重が長期にわたって維持されたからといって治ったわけではない。患者の悩んでいる本質的な精神的問題を解決しなければ、何度でも再発する。