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小児の脳炎・脳症について


脳炎・脳症

 中枢神経の感染症は呼吸器系や消化器系の感染症に比べ、頻度が低いが、抵抗力の不充分な高齢者や小児、特に乳幼児に集中して発生する。大脳、脳幹、小脳の脳実質における非化膿性炎症を脳炎と呼ぶ。経過により、急激に発症する急性脳炎、緩徐に進行する亜急性・慢性脳炎に分けられる。また、臨床的には急性脳炎の経過をとりながら、検査所見・脳の剖検所見上は、感染・炎症所見を認めない場合を急性脳症と呼ぶが、原因がはっきりしない場合がほとんどであり、さまざまな病態が含まれる。


脳炎

 脳炎は病因となる因子の種類と特殊性、小児の年齢、小児脳の解剖学的、生化学的成熟度、髄鞘化の程度、個体の免疫学的防御状態、社会経済的状況などによりさまざまな病態を示す。病因としては、ウイルス、リケッチア、スピロヘータ、原虫、細菌、真菌、アメーバーなどの感染、膠原病、代謝異常症などの全身疾患の波及、毒素などの中毒などがあるが、小児では大部分がウイルスによるものである。以下ウイルス性脳炎について述べる。

 脳炎の分類は、その経過、発症機序から以下のように分けられる。

1)急性脳炎

①急性ウイルス性脳炎

 中枢神経系内に入ったウイルスにより直接神経細胞が侵襲を受けて脳炎を呈するもの。感冒様症状に引き続いて、あるいは突然に頭痛、嘔吐、不穏、昏迷などを呈し、意識障害に陥る。しばしば発熱、全身痙攣をともなう。時に局所性の痙攣、ミオクローヌス、不随意運動のほかに幻覚、幻聴などの精神症状がみられることがある。髄膜炎を合併することも多く(髄膜脳炎)、頸部強直、ケルニッヒ徴候などの髄膜刺激症状を認める。原因ウイルスとしては、アルボウイルス群(日本脳炎など)、エンテロウイルス群(エコー、コクサッキー、ポリオウイルスなど)、ヘルペス群、ムンプス、アデノウイルスなどが多い。

⑧感染後脳炎・予防接種後脳炎

 麻疹、風疹や水痘などの発疹性疾患やインフルエンザなどの気道感染症の回復期、あるいは初期の急性期が経過した後に、脳炎と同じ神経症状が出現する。ウイルスなどにより侵襲を受けた後に、二次性に抗原の変性をきたし、自己免疫学的機序により発疱すると考えられている。急性二次性脳炎とも言う。


2)亜急性・慢性脳炎

①中枢神経系の遅発性ウイルス感染

 ウイルスの持続性の潜伏感染により、原疾患から数ケ月もしくは数年の長い潜伏期間をもって発症し、亜急性の経過をとるもので、遅発性ウイルス感染症(slow virus infection)と言われる。亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、クロイツフェルト・ヤコブ病などがこれに属する。


脳症

 最初に述べたように、原因が不明な場合にこう呼ぶことが多く、発疱病理をひとまとめにして述べることはできない。一方、高血圧、中毒、代謝異常症などの明確な原因による中枢神経症状は、おおよそ発症機序が明らかであり、それぞれの原因による脳症として分類される。

 以前より、原因不明の脳症のうち、比較的、病像、病理所見が均一な亜系を抽出し、疾患単位として確立して、病因・病態生理を解明しようとする試みがなされてきた。ライ症候群、溶血性尿毒症症候群(HUS)にともなう急性脳症、出血性ショックをともなう脳症、急性壊死性脳症などがそれにあたるが、いまだその病態は解明されていない。


1……脳炎の診断

 上記のような急性発疱の意識障害、痙攣、発熱などがあれば脳炎を疑う。ウイルス感染が先行していれば強く疑われる。血液、髄液、脳波、頭部CT・MRI所見などによって、髄膜炎、痙攣重積後状態などとの鑑別を行う。

 ①血液検査:ウイルス性脳炎では炎症所見はほとんど出ないか、弱い。末梢白血球は一般に正常ないし、しばしば低下するが、ときに増加していることもある。

 ②髄液検査:圧の亢進を認め、細胞数は軽度の増加でリンパ球優位である。髄膜炎の合併があれば増加はさらに強くなる。

 ③脳波:全般的な高振幅徐波で、脳浮腫、意識障害を示す所見である。一般に特異的な所見は認めないが、 SSPE、ヘルペス脳炎などでは特徴的な異常所見を示すことがある。

 ④頭部CT・MRI:脳浮腫以外に特徴的所見を示すことは少ないが、ヘルペス脳炎ではCTで前・側頭葉に低吸収域を認めることがある。

 ⑤ウイルス学的検査:血清ウイルス抗体価の上昇、髄液からのウイルス分離やPCR法でのウイルスゲノム検出などで原因ウイルスを判定する。

  そのほか尿、咽頭、便からでも分離されれば、病因である可能性が高い。

2……脳症の診断

 急性脳炎と同様の経過・症状を示しながら、発熱などの感染徴候がなく、髄液所見などでも炎症性の異常所見を全く認めない場合は急性脳症と診断する。時に低血糖、代謝性アシドーシス、好中球増多をみるが、ライ脳症ではそのほかに血清AST(GOT)・ALT(GPT)・LDH・CPK・尿素窒素の上昇、血中アンモニアの著増などの所見がみられる。頭部CT・MRIで脳浮郎の所見を認めることが多い。

3……脳炎・脳症の治療

 ヘルペス族ウイルスに対するアシクロビル以外は確実な抗ウイルス剤がないため、治療は対症的な治療とならざるを得ない。免疫学的機序を期待してカンマグロブリン製剤、副腎皮質ステロイド剤などが投与されることがあるが、確立された治療ではない。

 対症療法としては、①抗脳浮腫療法として、グリセオール、ステロイド過呼吸、②抗痙攣療法、③脳保護療法としてバルビツレート大量療法、低体温療法などが用いられる。特に①は必須である。その他、一般的な輸液量法、抗生物質療法、呼吸管理療法(酸素投与から人工呼吸まで)などが行われる。

4……脳炎・脳症の予後

 ウイルスの種類、毒性の強さ、宿主の免疫能、脳炎のタイプなどにより左右されるが、一般に予後が悪いものが多く、死亡率、後遺症を残す率も高い。単純ヘルペス脳炎、 SSPEなどではきわめて悪い。

 上記のように脳炎では、意識障害、発熱、痙攣、呼吸障害、脳圧亢進などを来すため、常に観察ができる重症個室やICUに収容し、意識や呼吸、血圧、脈拍などのバイクルサインの細かい観察、モニターが必要である。また、状況に応じて時期を失さないように、必要な治療を始めていく必要がある。

○症状の観察、把握

 ①意識レベル:意識レベルの変化、つまり呼びかけ、痛覚などの刺激への反応、対光反射などが保たれているかを細かくチェックする。

 ②脳圧亢進症状:脳炎の場合、進行が急激で、すでに意識が消失していることが多く、判断が困難な場合がある。乳児では大泉門の膨隆が著明となる。