遺伝的要因が原因で副作用は起こる

 

 体内で薬を代謝する主な臓器は、肝臓です。肝臓での代謝には、チトクロームP450と呼ばれる一群の酵素が関与しています。

 チトクロームP450という酵素群は、200以上もの多くの酵素が集まったものです。そしてこれは、遺伝的に4種類のファミリーに大別されます。その一つ一つのファミリーは、さらに細かくサブファミリーにまで分類できます。サブファミリーの中に「分子種」と呼ばれる数多くの代謝酵素があります。

 その中でもとりわけ4種類の酵素分子種が、薬の代謝には重要です。すなわち、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、およびCYP3A4と呼ばれている酵素です。

 これらの酵素分子種の働きは、人によってちがうことがわかっています。

 たとえば、コンパや宴会で酒を飲んだとしましょう。

 その時、アルコール(酒)に強い人と弱い人に、はっきりと分かれます。肝臓のアルコール脱水素酵素と呼ばれる酵素の活性が遺伝的に強い人は、アルコール(酒)に強く、アルコール脱水素酵素系が欠損している人、あるいは、アルコール脱水素酵素の活性が遺伝的に弱い人は、アルコール(酒)を飲めば、すぐに酔っ払ってふらふらになってしまうのです。

 欧米人に比べて、日本人は極端に酒に弱いと言われています。これは、日本人が欧米人よりもアルコール脱水素酵素が欠損している人、またはアルコール脱水素酵素の活性が遺伝的に低い人が多い、ということに由来しているようです。

 アルコールの場合と同じように、薬を代謝するチトクロームP450の分子種の活性が高い人、低い人、あるいは中間の人がいるのです。

 また、最近の研究では、このチトクロームP450の分子種の活性が強い人、弱い人の存在する比率が、日本人や欧米人など人種によってちがいがあることもわかっています。

 特に、日本人は薬の代謝の働きをするCYP2C19という酵素を、遺伝的に持っていない人がかなりいます。

 この人たちが、CYP2C19で代謝される薬剤を飲むと、肝臓で薬の代謝が遅くなり、体内からの薬の減り方が非常に遅くなります。その結果、循環血液中の薬の濃度が高くなり、ふつうの人たちと同じ量の薬剤を飲んだら、副作用がでてしまいます。 日本人のボランティアを募って、臨床試験を行いました。

 すると、CYP2C19に変異型を持つ人の割合は、約加]%でした。欧米人のCYP2C19に変異型を持つ人の割合は、約5%と報告されています。このように人種差があることがわかります。

 CYP2C19で代謝される、オメプラソール(商品名オメプラール、オメプラソン)という、胃潰瘍薬を飲んだ時の循環血液中の薬の濃度を比較したものです。

 CYP2C19の活性が遺伝的に強い人は、薬剤を飲んだ後、薬が吸収され、肝臓で素早く代謝されるため、循環血液中の薬の濃度が急上昇しないことがわかります。したがって、このような遺伝的な因子を持った人は、ふつうの投与量よりも、はるかに多い量を投与しないと、胃潰瘍の治療に効果がないことになります。

 また、反対に、遺伝的にCYP2C19が欠損している人は、薬剤を飲んだ後、速い速度で循環血液中の薬の濃度が上がることがわかっています。このような遺伝的要因を持った人が胃潰瘍の治療を行う場合は、一般の薬剤の投与量より減らさないと、副作用が心配されます。

 このように、肝臓の代謝酵素は、遺伝子によって性質が決まっています。

 一例を紹介しておきましょう。

 40歳の主婦が、夫婦でカナダ旅行にでかけました。飛行機の中で1泊しなければならないので、よく眠れるようにと、夫の常備薬である抗不安薬ジアゼパムを1錠もらって飲みました。

 しかし、薬剤を飲んだ後、眠くなってしまい、楽しみにしていた機内食も食べられずに長時間眠ってしまいました。

 これは、この女性が遺伝的に、肝臓の薬物代謝酵素CYP2C19の活性が低かったため、ふつうの人よりも薬の代謝が遅く循環血液中の薬の濃度が高くなり、副作用が現れた例です。

 この例は、処方された薬剤を他人に譲り渡したために起こった現象です。たとえ夫婦間でも、軽々しく薬剤を融通しあうことの危険性を示しています。どうしても飲まなければならないのであれば、安全のため錠剤を4分割して飲みます。そして5分以内に眠くなければ、1/4錠を追加して飲む、という具合に慎重に行う必要があります。