高度難聴(六〇デシベル以上)

 

 一対一の会話も困難である。先天性、あるいは言語獲得年齢の三歳までに高度難聴になると、言語が発達せず、周囲の人が理解できる発語が困難である。現在では、一〇〇デシベル程度までの難聴では強力な補聴器を両耳に装用させ、生後早期から十分な教育をおこなう。聾はI〇〇デシベル以上の難聴をさす。

 

 身体障害者福祉法にもとづく等級判定では、両耳の聴力がそれぞれ一〇〇デシベル以上を全聾として、最重症の二級としている。視力障害では、全盲は一級の障害と判定される。なお、一方の耳がまったくきこえなくても、他方が正常であれば、身体障害者とは判定されな耳小骨、つも骨、きぬた骨、あぶみ骨が関節で連なり、鼓膜の振動を内耳に伝えていることはすでにのべた。空気のとり入九は、耳管(欧氏管とも呼ばれる)を通しておこなわれる。手術をして空気室をつくりなおすと、空気が耳管を通じて出入りし、中耳には粘膜がきれいに張りつめる。

 

 鼓膜は小指の爪の大きさほどであり、中耳も耳小骨も小さいので、耳の手術は肉眼では無理で、手術用顕微鏡を用いておこなわれる。これは顕微鏡下手術(マイクロサージェリー)と呼ばれる。ちなみに、現在多くの分野でおこなわれている顕微鏡下手術は、一九二一年にスウェーデンのニレンにより耳の手術ではじめておこなわれた。中耳炎という感染のあ中耳にメスを加えることが多い「鼓室形成術」は、抗生物質が登場してはじめて可能になったのである。

 

 伝音性難聴のための「鼓室形成術」と呼ばれる聴力改善手術は、一九五〇年代に二人のドイツ人(クルスダイン、ツェルナー)、一人の日本人(後藤修二)によって創案された。れまでの耳の手術は多くの一般の外料手術と同じで、中耳の病巣や膿汁をかき出すというもので、聴力改善などは思いもよらないことであった。鼓室形成術の歴史は比較的浅く、五〇年に満たないのである。

 

 伝音性難聴は外耳、中耳に原因のある難聴であるとのべた。数も多く、種類も多い。慢性中耳炎、外瘍による外耳、中耳とくに鼓膜や耳小骨の破損、外耳道や中耳の奇形、耳硬化症(あぶみ骨底板の固着)などで、これら伝音性難聴の多くは手術によって聴力改善が可能である。

 

 伝音性難聴でない難聴の大部分は、手術治療の対象にならない。これにはどんな難聴があるであろうか。内耳の病気による難聴、蝸牛神経の障害による難聴、脳幹から大脳に原因のある難聴で、難聴の種類も程度もさまざまである。

 

 今日、難聴の診断は、これまでにのべた数多くの聴力検査法によって構密に正確におこなかれるようになったが、さらにレントゲン、コンピュータ断層χ線撮影(CTスキャン、磁気共鳴画像法(MRI)等により、外耳、中耳、内耳の形の異常が手にとるように見えるようになった。こうして頭蓋骨の奥深いところにある中耳、内耳の様手がよくわかるようになってきたので、耳の手術は二〇年前にくらべて安全に、効率的におこなわれる。より困難な手術にも挑戦できる時代になった。

 

 手術する部位には、骨、粘膜、皮膚、繊細な内耳、蝸牛神経、顔面神経などのさまざまな 組織が、狭いところに複雑に共存しているので、耳の手術を安全に成功裏におこなうには、

耳科学-難聴に挑む  鈴木涼一、小林武夫著より