過大な音響による難聴

 

 強大な音響によって難聴がおこることは、三〇〇年紀前にイタリアの医学書に明確に書かれている。労働医学の父といわれるモデナ公国出身のラマッツィーユは、一七〇〇年にパドヴア大学教授になったときに、『働く人々の病気』を出版した。「銅鍛治の病気」の章には、「始めに木の槌、つぎに鉄の槌で、一日中新しい銅をたたき……絶え間のない騒音が耳や全身に障害を起こす……いつでもたたいでいるから、鼓膜は自然の聴力を失い、内部の空気は側壁に押されて聴器全体を弱め、混乱させるから聾となり、……年をとると完全な聾になってしまう」とある。予防には「騒音によって障害を受けることが少ないように、耳には綿で

栓をするがよい」とある。また「パン製造職人と粉屋の病気」の章には、「昼夜間断のない車とひきうすの石の音の騒音、高いところから落ちる水の音のために、鼓膜は絶えず耐えられないほど強い振動をうけ、鼓膜の力は弱まって、ほとんど皆が聾になる」とある。 現在、音響による障害は、急性、慢性の二つに分けて考えるのがふつうである。このような場合、「音響外瘍」という言葉を使う。職業に関係がある場合は「職業性難聴」という。騒音に顧慮しない工場の多い発展途上国では大きな間題となっている。

 

 ・急性音響外傷  予期しない強大な音により、内耳が障害される。一 一〇~一三〇デシベル程度の強さの音である。鉄砲・花火の爆発、補聴器使用者が音單調節を不適切なまま装用したとき、列車が通過するガードの下に居含わせたとき等々が考えられる。爆発事故などでは、爆風により鼓膜が破裂することもある。内耳の出血や有毛細胞の破壊がみられ、受瘍後ある程度の回復を示すこともあるが、回復しないことも多く、難聴がさらに進行することもある。オージオダラムの上では水平型が、高音域へ向がっての慚傾型が多い。

 

 ・慢性音響外瘍-一〇〇デシベル程度の騒音に五~一〇年程度さらされると発生する。「職業性難聴」が多い。このレベルの音には短い期間の暴露なら難聴は回復するが、暴露期問が長くなると永久的難聴となる。難聴は通常は両側耳にくる。射撃によるものは、銃口に近い方の耳、すなわち左耳に難聴が強い。初期には四〇〇〇ヘルツの高さの音のきこえが悪くなるのが特徴である。程度が進むと四〇〇〇ヘルツ近くの高音域のきこえが悪化し、さらに低音域にも広がってくる。

 

 オーケストラ団員やロックーミュージシャンでも職業性難聴がおこりうる。楽しみながらきく音楽は、大きくても人体にはストレスにならす、ストレスがたまらないときは、大体は障害を受けにくいという。騒音の性質によっても障害をおこす率が異なる。周波数が高い騒音の方が、周波数が低い騒音(ディーゼルエンジン職場)より危険が大きいという。

 

 職業性難聴は治療して回復させることは困難で、予防が大切である。騒音源の遮断や排除、防音具(耳栓)の使用と、定期的聴力検査が必要である。

 

 ・ディスコ難聴あるいはヘッドホン難聴-これまで大きな音量で何度もきいているのに、急に難聴がおこることがある。これは騒音性難聴とは病態が異なるようである。体調なども関係しているらしい。回復しない場含有ある。英国で、飲酒しながら爆発的なロック音楽をきいて一晩過ごした若者が、帰宅途中脳出血をおこして死亡したという報告もある。

耳科学-難聴に挑む  鈴木涼一、小林武夫著より