耳鼻咽喉科の始まり

 

 耳鼻咽喉科は、外科から分かれて独立の専門分野となった。わが国の場合、一〇〇年ぐらい前のことである。諸外国ではさまざまで、耳鼻咽喉科が独立している国が多いが、今も外科に属している国もある。専門分野として分かれた理由は、耳鼻科領域の救急疾患への対応が一般外科医にとっては困難で、かなり専門化した知識と技術が要求されたためと聞いている。ジフテリアによる軟口蓋の麻痺、結核喉頭炎、急性中耳炎が進んだ乳様突起炎、さらにこれが脳の方に進んだ脳膿瘍などには緊急処置が必要とされ、そして危険かつ複雑な手術が要求されたのである。

 

 さて、今を去る四十数年前のこと、真夜中に緊急手術があり、筆者の一人(鈴木)は助手として、中耳炎から発生した脳膿瘍の手術に参加した。いわゆるドレナージュ(排膿手術)をおこなったのであるが、ようやく抗生物質が行きわたりはじめていた頃である。その後、中耳炎が原因の脳膿瘍に出会ったことはない。大脳あるいは小脳の脳膿瘍はしばしばサイレントで、所在を示す症状も所見もはっきりしないままのことがある、と先輩から聞かされた。

 

 耳鼻咽喉科は、耳、鼻、咽頭喉頭が専門であると表示している。耳、鼻、のと(咽喉)などは一見離れて見えるが、実は中で互いに連なっているので、たとえば鼻におこった炎症は、たちまちに耳、咽頭喉頭に伝わるという事情がある。鼻の悪い人は、慢性中耳炎をもっていたり、慢性喉頭炎をもっていることが少なくない。したがって、耳、鼻、のどを一緒に取り扱う科が必要なのである。最近では気管、食道までも含めて「耳鼻咽喉気管食道科」などと呼ぶことがある。

 

 さらにアメリカ、ヨーロッパなどでは、頸や顔面も含めて、「耳鼻咽喉・頭頸部外科」と名称を改めている。頭頸部の悪性腫瘍は、場所がら、その道の専門医の治療が要求されるからである。他方では、内科、外科といった簡単な呼び名を求める声もあるが、耳、鼻など具体的治療の対象を明示している方がよいとの意見もある。

耳科学-難聴に挑む  鈴木涼一、小林武夫著より