光学機器、画像診断の進歩、コンピュータの参画

 

 さきにのべた手術用顕微鏡は、今日、五〇年前とくらべるとまったく比較にならないほどに進歩した。視野も明るく画像も鮮明、操作も著しく容易になった。助手用の側視鏡も双眼で、助平が手を出して文すどおり手術を手伝うことができる。術者も助手も、比較的長時間の顕微鏡下手術、鼓室形成術に十分耐えられるようになった。

 

 耳鼻咽喉科は、喉頭、気管、食道などの内腔を観察することが必要で、このための器械は内視鏡と呼ばれる。戦前にひきつづき戦後も、真っ直ぐな中空の内視鏡が広く用いられ、耳鼻咽喉科でも、気管、食道の観察や処置、異物摘出などに使われていた。その後、筆者の医学生の頃、真っ直ぐなダラスファイバーの内視鏡が登場した。医学界に大きな進歩として迎えられ、学生講義でも紹介された。絵画部に所属していた筆者(鈴木)は、依頼されて、腹腔内視鏡で見た胆嚢を図に描いたりした。写真にとることがまだできなかったのである。

 

 テレビの登場は四〇年前であるが、狭い、深いところの手術をする耳鼻咽喉科に、これまた大きな福音をもたらした。今日の、ダラスファイ。(Iを用いた内視鏡「ファイ。パースコープ」は、細く、また曲げられるので、癪・咽頭喉頭・気管・気管支・食道の診断治療には欠かせないが、これにテレビをつけ加えて、診断、治療、教育に活用することができるようになった。いわゆるフレキ七ブルファイ。(Iで身体の中をのぞかれた経験のある方は少なくないと思う。ガラス技術、CCDカメラの登場など、光学技術の進歩のおかげである。近年は小型CCDカメラをつけて画像を直接テレビに映し、記録その他が電子化されるようになっている。

 

 今日、耳鼻咽喉科では、外来でも、鼻の奥、上咽頭、下咽頭喉頭など、細いファイバースコトフを日常的に用いている。明るい視野でビデオで見たり記録したりする。患者さんへの説明はもとより、医学生、看護学生にたいする教育的価値も大きいし、被検者への負担も小さい。

 

 そのむかし、われわれ医学部の学生の大部分は、多少言い過ぎかも知れないが、喉頭や上咽頭、鼓膜をよくは見ずに卒業した。今日の医学生は全員、声帯の動き、声帯のわずかの病変も、鼓膜も、その穿孔もつぶさに見て、知って、卒業している。学生にとってまことにありがたいことであるが、学生がそれをとくにおりがたい進歩として受け止めているかどうか、よくはわからない。

 

 コンピュータの出現は、またご承知のように、CT、MRIを生み、いわゆる「画像診断学」に一大革命をもたらした。医学の全体をもゆるがす進歩をもたらしたのである。とくに、「頭蓋骨」そのものを手術する耳鼻咽喉科への貢献は絶大である。進歩したX線断層撮影をもってしても半ば手探りであった中耳・内耳の手術も、CT、MRI、それに明るい視野の手術用顕微鏡によって、文字どおり明視下に、また十分に計画しての手術が可能となった。外耳、中耳、内耳の「奇形」の手術も、危険を予知したうえで実施できるようになった。

 

 外耳、中耳の奇形が意外に多いこともわかってきた。CT、MRIの登場する以前は、細かな奇形は十分には見分けられなかったのである。耳の奇形は、たとえば外耳道の閉鎖、中耳では耳牛骨奇形、内耳では蝸牛の形成不全、外側手規管欠損など、CTとMRIで細部まで手にとるようにわかる。

 

 CTは主に骨の変化を見るので、耳鼻咽喉科における価値は大変大きい。耳も、日も、のども、骨の中にあったり、骨にとり囲まれているからである。MRIは、骨でなく、軟部組織の変化を見るのに適している。内耳には液体が満ちているので、浮き彫りになった内耳の形の変化をとらえることができる。血管に造影剤を入れて見るMRIをMRAと呼んでいるが、これも血管との関係を明らかにする意味で大変有用である。

 

 がん、すなわち悪性腫瘍は、増殖して周囲を破壊する。むかしのX線による断層撮影では十分にわからなかった変化を、今日のCTは明確に示してくれる。耳の奥にてきた腫瘍も、CTあるいはMRIなどの画像によって、場所、大きさ、性質なども手にとるように知ることができる。

 

 「頭蓋底」はとこか、おわかりであろうか。文字どおり頭蓋骨の底部、第一頸椎の上についていて、多くの筋肉や腱が頭蓋骨をしっかりと支えている。ここがゆらいだら大変である。この場所は、したがって手術がむずがしいし、危険でもある。手術でそこに到達すること自体がまず困難なのである。それが、CT、MRIなどを含めての画像診断の進歩によって、また手術手技の進歩もあって、この部位への手術が可能になってきた。頭蓋骨の病変や頸の病変、そして多くは量性あるいは悪性の腫瘍であるが、上下両方向から頭蓋底に向かってくる。中耳・内耳も巻きこまれることが少なくない。このあたりの手術は部位にもよるが、医師にとってもあまり気の進まないものである。しかし、欧米では今日大変盛んになりつつある分野である。

 

 いすれにしても、手術可能な領域がまた一つ増えた。多くの場含、悪性腫癌が原因であるが、「あきらめない」、という医学の姿勢を示しているといえる。

 

 以上のような進歩が、耳鼻咽喉科関係の神経学的診断と外科的治療にもたらされた。こうして耳鼻咽喉科は、一〇〇年前の救急外科から、今日は、形成外科、機能回復外科、神経耳鼻咽喉科を含む耳鼻咽喉科へと変容したのである。学生実習で、耳鼻咽喉科の広い領域に驚いたという感想を書く学生は少なくない。以上概観しただけであるが、今日の耳鼻咽喉科は、

 

耳科学-難聴に挑む  鈴木涼一、小林武夫著より