肝臓におけるマトリックス産生細胞

 

 肝臓は組緘学的に特殊性があり、門脈域には他の臓器と同様の結合組織があるが、小葉内はほとんど結合組織のない元来結合組織に乏しい臓器と考えられている。慢性肝炎でみられる門脈域の線維性拡大は、結合組緘や皮膚など他の臓器の線維化に近い線維化機序と考えられてきた。一方、小葉内の肝細胞の障害・脱落部の線維化機序が討論の的であった。肝細胞は肝臓の細胞数の90%を占めており、肝細胞が障害を受けるとマトリックスを産生するのではないかという仮説があり、榊原耕子博士のNature (1976)はその可能性を示すものであった。 1970年代になると、通常の結合組織の修復の主役である筋線維芽細胞力肝硬変の線維化副関与することが発@され、肝傍類洞腔に存在する伊束細胞およびそれから形質転換した筋線維芽細胞が肝線維化においてマトリックス産生細胞として論議されることとなった。また、 1970年代には、細胞生物学の進歩から細胞の単離と単層培養が可能になった。肝細胞、伊東細胞、胆管上皮細胞のマトリックス産生かマトリックス各成分の抗体を用いて、形態学的にあるいは生化学的に示された。最近の知見を加味すると、18種類のコラーゲンが遺伝的に規定されており、プロテオグリカンの構造と種類が明らかにされ、フイブロネクチン、ラミニンなどの糖蛋白が同定された。培養肝細胞はある条件下でこれらマトリックスの主要なものを産生することがかつて報告された。

 

 さらにこの10年、これらマトリックス成分の一次構造が決定され、マトリックス各成分のモノクローナル抗体を用いたより精度の高い電顕でTakaharaら2)は慢性肝障害の肝線維化のマトリックス産生細胞は肝細胞ではなく、伊東細胞であることを明らかにした。さらにin situ hybridizationによるコラーゲン産生に関するMilaniら3〕の報告によれば、四塩化炭素によるラットの実験的肝線維化過程でI型プロコラーゲンα2鎖、Ⅲ型プロコラーゲンα1鎖、およびIV型プロコラーゲンα1鎖のcDNAプローブを用いて、それぞれのmRNAの局在を観察している。正常肝では、門脈域の間質細胞、諸処の類洞壁細胞および末梢脈管周囲の間質細胞でみられ、肝細胞にはみられなかったという。線維肝でも以上の部位と線維性隔壁の間質細胞にみられ、肝細胞には見られていない。