一般に自己抗体はその酵素活性を左右するような巾装な部位に反応する場合が多い. PBCのPDH-E2抗体もまたその酵素活性を抑制し,典型的な自己抗休の性格を有している.また,ミトコンドリア抗原に対する細胞性免疫もPBCで観察され,PBCの肝浸潤T細胞より樹立したCD4陽性T細胞cell HneはPDH刺激によりIL-2を産生する。 さらに, PBCの末梢血T細胞も同様にPDII-E2に免疫応答し,その応答性は早期PBCで強く肝硬変期で低下する。 このようにPBCではミトコンドリア抗原特異的なTおよびB細胞の免疫応答が成立しているが,今までのところPDH-E2免疫によるPBCの動物モデリレ作製は成功していない.

 

 ミトコンドリアはすべての組織に普遍的に存在するのに,なぜ障害が肝内胆管中心に惹起されるのか. Moeharioらは胆管に特異的なPDH-E2 isoformの存在を検索したが,明らかなものは確認されなかった.しかし1991年,PBCの胆管上皮にPDH-E2抗体と反応する分子が高濃炭に存在することが相次いで報告された. Jop!inらはPBC患者より得た培養肝内胆管上皮細胞を,ウシ心筋PDH-E2を免疫して得た家兎polyclonal抗体で免疫染色細胞膜に存在する特異反応を検出した。 GershwinらはPDH-E2のInner Iipoyl domain に対するmonoclonal抗体を用いた検討で報告をしている。 さらに彼ら5)は免疫電顕でPBC胆管の管腔側に特異染色の局在を観察し,胆汁中にもそのmonoclonal抗体反応する物体があると報告した.彼らはミトコンドリア内膜以外にPDH-E2 inner lipoyldomainと交差抗原性を有する未知の分子がPBC胆管上皮細胞に存在すると想定している.従来, PBCでは病態病因論的に細胞性免疫の優位性がいかれてきたが,液性免疫(AMA)もまたPBCの病態形成に関与している可能性がある.実際, KramsらはPBC (stage m~IV)の胆管上皮に免疫グロブリンの沈着を報告している. PBCの胆管上皮細胞の膜面に発現するPDH-E2と交差抗原性をもつ分子は何か,その疾患特異的な発現機序,それに対する免疫寛容破綻のメカニズムなど解決されなければならない問題は多い.

 

 ミトコンドリア蛋白は細菌からヒトに至るまでその構造がよく保たれているので,以前より細菌などの慢性感染症とAMAとの関連が指摘されてきた.1984年, BurroughsらはPBC患者の多くが慢性の細菌を有することを報告し, PBCの発症と感染性因子との関連性が注目され始めた.その後, AMAがE. coli (特にR form),また最近ではMycobacterium gordonaeあるいは結核菌などと交差反応性を有することも報告されている.PBC以外の反復性尿路感染症を有する女性では,低力倆ではあるがその50%でAMAが検出され, 41%がR-formのE. coliを有するとの報告がある.しかし逆に, FusseyらはPBCのPDH-E2抗休はyeastとは反応するが,細菌(特にE. colt)のPDH-E2とはほとんど交差反応性を持たないと報告し, PBCの病因としての細菌感染によるmolecular mimicry説を疑問視している.またTeohらも, PBCのAMAはE. coli PDH-E2の酵素活性をほとんど抑制しないことを明らかにし, E. coli病因説に疑義を唱えている.以上のように抗体レベルでの検索では,相反する知見が報告されているが,E. coli感染によるmolecular mimicry説は現時点では否定的な情勢にあるように思われる.

 

 しかし最近, Shimodaらは4人のPBC患者末梢血から6個のPDII-E2特異的T細胞クローンを作製し,そのうちの一つのクローンがE. coli PDH-E2のペプチドにも応答することを示し,T細胞レベルでmimicry説を支持する成績を報告した。 そのT細胞クローンはHLA DRB4*0101拘束性で,PDH-E2のinner lipoyl domain に存在する163~176番のアミノ酸配列(GDLLAEIETDKATI)を認識する.また, PDH。E2のouter lipoyl do-mamに存在する類似の配列(36~49番:GDLIAEVETDKATV)をも認識する.アミノ酸置換実験による検討から,T細胞クローンの認識にはEXDKという配列が不可欠であり,PDH-E2分子でもEXDKの配列を有するペプチドのみをT細胞クローンは認識したと報告している.