食道,胃静脈瘤の血行動態

 

 1.食道,胃静脈瘤の発生

 

 門脈圧がある閾値を超えると,食道静脈瘤が発生する. Garcia-Tsaoら6〕は93例のアルコール|埀肝硬変症に対して門脈圧を肝静脈カテーテル法を用いてHVPG(肝静脈圧勾配)を測定七,その値は12 mmllg であることを見いだした.われわれ7)も,肝硬変患者において食道静脈瘤は,肝静脈圧較差11mmHg以上で発生することを確認した.しかし静脈瘤の大きさと門脈圧との間に相関は認められなかった. Calesら8〕は,食道静脈瘤の大きさとPugh-Child's score との間に密接な関係を認めているが,胃穹窿部静脈瘤との間には相関を認めていない.したがって高度の静脈瘤は,より進展した肝硬変症に付随してくるものと考えられる.一方,胃穹窿部静脈瘤は脳症を合併しやすく,この機序として,肝機能不全よりむしろ巨大な門脈大循環シャント(脾肖腎シャント)の介在が主因であることが明らかにされている.しかも高度の短絡率を有しているため食道静脈瘤は発生しないか,軽度の症例が多い.

 

 2.胃上部局所におけるHyperdynamic state

 

 肝内血管抵抗の上昇と門脈血流入量増大により門脈圧が上昇し,左胄静脈および短胃静脈あるいは後胃静脈血の逆流現象が起きるかに静脈瘤の発生と進艇には,さらに井口ら9)が提唱した上部局所のhyperdynamic state左胃動脈血の流入が関与している.この血が食道,胃移行部を経て食道の粘膜下静脈,粘膜固有層静脈へ流入し,静脈瘤が形成されるというものである.左胃静脈の血流方向は遠肝性血流のみならず, to and fro性や求肝性血流も認められ,門脈血の逆流のみならずhyperdynanlic stateによる左胃動脈血の流入が示唆されている.

 

 また,食道,胃粘膜接合部から2~4cm口側の下部食道(ほぼ腹部食道に相当する部)は門脈系と大循環系の接点にあたり,特殊な血管構築がみられる.亢進を伴わない場合bidirectional venous flow を呈しており,呼吸などにより胸腔側と腹腔側の両方に流れているが,門脈圧亢進とともに,遠肝性血流となり静脈瘤を形成してゆく.

 

 3.食道,胃静脈瘤の供血路

 

 食道静脈瘤の形成に関与する主な側副血行路は左冐静脈系と短胃静脈系であるが,そのほかに後胃静脈(無名静脈)や下横隔膜静脈などが関与する.われわれの食道静脈瘤を伴う肝硬変患者65例に対する経皮経肝門脈造影の検討では1七全例で左胃静脈が食道静脈瘤の主要な供血路となっていた.すなわち,左胃静脈単独例は27例(41%)で,他は左胃静脈とともに後胃静脈,短胃静脈が静脈瘤を形成しており,短胃静脈坤後胃静脈のみが食道静脈瘤の供血路となっている症例は認められない.

 

 胃静脈瘤は食道静脈瘤と同様に門脈圧亢進症における側副血行路の途中に発生する.しかし,食道静脈瘤に比べすたれ徐静脈を有さないため血流の緩衝部分がなく,門脈血流を直接反映して血流量が多い.胃腎シャントを有している例は少ない.噴門部後壁,大弯および噴門から穹窿部に連続する静脈瘤は後胃および短胃静脈から主として供血され,睥肖腎シャントを有している例が多く,穹窿部の静脈瘤は主として短胃静脈から供給され,全例脾胃腎シャントを有しており,食道静脈瘤との交通はまずみられない.

 

 4.食道静脈瘤の圧と張力

 

 前述のGarcia-Tsaoら6〕は,出血例では非出血例に比し門脈圧が有意に高かったと報告している.しかし門脈圧は側副血行路の発達のパターンにより変化し,また食道静脈瘤との間には圧勾配が存在し,食道静脈瘤血部のHemodynamicsを的確に表現しているとは言い難い. Rigauら13)は,静脈瘤内圧測定装置,すなわちendoscopic gauge を用いて,出血例47例,非出血例23例の静脈瘤内圧を計測し,両群のHVPGに差がないにもかかわらず,静脈瘤圧は出血群で有意に高かったとしている.また彼らはLaPlaceの法則を用いて,静脈瘤壁のtension (張力)を計算し,出血例では非出血例に比し2倍以上の高値を示した.つまり静脈瘤内圧が高く,直径が大きく,壁が薄い静脈瘤はtensionが高く出血しやすいということになる.さらにKleberらは,直接穿刺により食道静脈瘤内圧を計測したところred colorを有する静脈瘤では有さないものに比べ有意に高圧であったとしている.今後,器具の改良により静脈瘤内圧が容易に計測できるようになれば,内視鏡所見とともに静脈瘤出血の予知に大きな助けとなるであろう.